2013年01月16日
ピューター(pewter)とは、スズを主成分とする合金で、日本語では「しろめ」とも呼ばれます。
最大の特徴は融点が低いことで、組成によっては約250℃で熔けるものもあります。
これだけ融点が低いと、家庭用コンロとホーロー鍋でも熔解させることができるので、
ピューターを原料に、ご家庭で鋳物づくりを楽しんでいる方もいらっしゃるようです。
さて、このピューターですが、一時期は英国の特産品でした。
古くはローマ帝国時代。イングランド南西に突き出た半島のCornwall地方ではスズや鉛が
とれたので、これを原料にしたピューター製品が多く製造されたのです。
ピューター製品は、銀に勝るとも劣らない美しい金属光沢を持つとともに、
柔軟かつ適当な強さを持ち合わせています。このために、ヨーロッパ中で使われるようになり、
英国の主要輸出品の一つにもなっていました。
やがて、14世紀半ばには、ロンドンがピューター製品の一大産地になります。
また、英国ではピューター製品の品質基準が定められるとともに、厳格な管理が
行われたました。その結果、英国製ピューターは非常に高い評価を得るように
なりました。
しかし、17世紀をピークとして、ピューターはやがて衰退していきます。
18世紀になると新たな特産品として磁器の製造が盛んになったためです。
また、当時の最先端技術である「電気めっき」の登場も、それに追い打ちをかけました。
その結果、テーブルウェアの主役はピューターから磁器に、金属器もピューター製から
シルバー・プレート製(銀メッキ)に移っていきました。
しかし、この時期、ピューターに関しても改良がありました。
それまでは合金の成分として鉛が使われていましたが、その代わりにアンチモンが
使われるようになったのです。この新しい組成の合金は「チューダー・ピューター」
あるいは「ブリタニア・メタル」と呼ばれ、現在に至るまで使われています。
そして、より安全で、より強く、より美しくなったピューターは、19世紀後半から
始まった「アーツ・アンド・クラフト運動」と、それに続く「アールヌーボー」の時代に
再び脚光を浴びます。大量生産一辺倒により失われつつあったクラフトマンシップと、
ピューターの扱いさすさ・美しさが出会った結果、鋳造による美術工芸品の製作技術が確立されます。
そして、この時期、日用製品とも違う、しかし量産も可能な優れた工芸作品が、
多く世に出されました。
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ピューター製品 一覧